幻の鬼太郎妖怪のルーツを求めて |
人気マンガ「ゲゲゲの鬼太郎」の研究本や特集本は数多いですが、中でも、「ゲゲゲの鬼太郎
謎全史」(JTB)は、ほぼ
「ゲゲゲの鬼太郎」の全シリーズを取り上げて解説している、屈指の労作です。何よりも楽しいのは、「ゲゲゲの鬼太郎」登場妖怪の紹介コーナーで、各妖怪の
原典について、軽く説明されているところです。著者は、「妖怪事典」(毎日新聞社)で、全ての日本妖怪の出自をふるい分けてみせた村上健司ですので、この
ぐらい詳しいのも当たり前でしょう。このように「ゲゲゲの鬼太郎謎全史」は非常に信頼できる内容ですので、まずは、この本をベースに敷き、なおかつ、この
本でも分析しきれなかったり、書き漏れてしまったと思われる妖怪について、このページでは触れてゆきたいと思います。
まずは、もちろん、バックベアードからです。
1、バックベアード
今日の識者の間では、「バックベアードは水木しげるの創作である」と言う見解がほぼ定着していますが、実際に、水木しげるの書いた妖怪図鑑以外では、
バックベアードが紹介されている妖怪事典は過去にも現在にも見当たりません。
バックベアードが「ゲゲゲの鬼太郎」に初めて登場したのは、「妖怪大戦争」での欧米妖怪のボス役ででしたので、究極の悪玉妖怪にする為、水木しげるはあ
えてオリジナルキャラを作ったのではないかとも推察されます。バックベアードのデザインに関しては、ある画家が盗作疑惑をふっかけたりもしており、その点
からも、バックベアード創作説はより真実性を帯びてきます。
しかし、重要な事を忘れてはいけません。妖怪伝承というのは、そもそも、言葉で受け継がれているものであり、具体的な姿に関しては、それぞれの解釈者に
よって、変化が生じてくるものなのです。仮に、水木しげるの描いたバックベアードのデザインが本当に盗作物だったとしても、それとは別に、バックベアード
の伝承が本当に存在していたとしてもおかしくはないでしょう。
ここで、バックベアードの実在性を見極めるにあたって、やっかいな壁となっているのは、「バックベアードはアメリカの妖怪だ」という基本説明です。アメ
リカ大陸には、先住者(インディアン)の歴史と移住者(現代アメリカ人)の歴史があり、それらの妖怪伝承については、国内や西欧諸国のものほど細かく日本
では研究されていないのです。
バックベアードとは、インディアンのすでに失われかけた歴史に出てきた末端の精霊だったのかもしれません。あるいは、開拓時代に辺境の地方で広まってい
たフォークロアー(お化けの噂話)の一種だった可能性もあります。水木しげるが、何らかの資料から、そうした情報をひょっこりと拾い上げ、それを大きく脚
色したと言う可能性も決して否定はしきれず、もし、そうだとすれば、インディアンの精霊にせよ、開拓時代のお化け話にせよ、その数は莫大であり、全てを検
討するのはまず不可能であり、バックベアードの元ネタの確定はそもそも出来そうにないと言う事になります。
ところで、ここに、奇妙なデータが一つあります。アメリカで制作された妖怪ドラマに「事件記者コルチャク」(1974年制作)と言うのがあり、この作品
にも、巨大な目玉の怪物が登場するのです。名前もマッチモニードと言い、「バックベアード」と若干響きが似ています。「事件記者コルチャク」に出てくる妖
怪も、全てが出自のはっきりしたものばかりだとは言い切れない為、このマッチモニードが本当に元ネタのある妖怪だとは断言しきれないのですが、仮に、もし
元ネタが実在していたとするならば、これこそ、バックベアードのルーツだったと言う仮説もかなり有力になってくるはずです。
マッチモニードについては、私のサイト内の「事件記者
コルチャク」のコーナーで、
すでに解析しておきました。マッチモニードの正体かと思われる妖怪は、マチ・マニトウです。「世界の怪物・神獣事典」(原書房)に記されたマチ・マニトウ
の説明からは、「大目玉の怪物」と言う肝心な特徴は読み取れませんが、「世界の怪物・神獣事典」の著者(キャロル・ローズ)が知らないところで、そのよう
な伝承も語られていたと言う可能性も捨てられないでしょう。
正式な発音はマチ・マニトウですが、それがなまった結果、一方ではマッチモニードとなり、日本ではバックベアードの名前で知られるようになった。大雑把
な推理ではありますが、バックベアードのルーツについては、以上のように考えてみても、悪くはないかもしれません。
<バックベアードとバグベア>
ムック本などで「バックベアードの名前の由来はバグベアではないか」と言う仮説が紹介され
ている為、この説になびいている人も多いかもしれませんが、私はバグベア説はあまり信用していません。
確かに、私も、はじめて妖怪バグベアの名前を見つけた時は、これぞバックベアードではないかと疑いはしたのですが、よく調べてゆくうち、バグベアはあま
りにもバックベアードとはディテールが異なりすぎるのです。
名前だけをひねったのではないかという意見も聞かれるのですが、水木しげるの創作妖怪の命名法では、「名前だけをひねる」というパターンは他には見当た
りません。ねずみ男や猫仙人、吸血鬼エリートのように「名は体を表す」非常に分かりやすい完全な創作妖怪か、あるいは、後述しますが、アササボンサンやい
やみのような些細な名称の表記間違いで、妖怪の設定自体は原典とほぼ一致しているかの、どちらかなのです。
もし、バックベアードがバグベアだとすれば、後者にあたるはずなのですが、この二種類の妖怪には、うなずける共通点がまるで見当たらないのです。出身地
さえ、バグベアは英国なので、アメリカのバックベアードとは一致しません。
バグベアかもしれない可能性が唯一あるとすれば、水木しげるは知り合いのイギリス人あたりから口伝えで妖怪バグベアの存在を教えてもらったのではない
か、と言う事が考えられます。バグベアは、もともと、しつけの為に親が子供を怖がらせる目的で考えだした妖怪だったのです。(「言う事を聞かない子はお化
けに連れていかれちゃうよ」みたいに)だから、バグベアのディテールは、各地方、各家庭の大人たちの思い付きで色々と変わっていったりもします。水木しげ
るにバグベアを伝えたイギリス人の知っているバグベアの姿が、たまたま「大目玉の化け物」だったのかもしれません。そして、子供の頃に聞かされたお化けほ
ど、その本人にとっては、もっとも怖い怪物だったりもするものなのです。そのイギリス人が「世界でもっとも恐ろしい妖怪」として語ってくれたバグベアの事
をヒアリングミスでバックベアードと聞き間違え、水木しげるは「妖怪大戦争」に出てくる外国妖怪の王様として採用したのかもしれません。
2、アササボンサン
アササボンサンは、原作「血戦小笠原」に出てきた吸血妖怪です。このエピソードには、他にも多数のアジア系の吸血妖怪が登場し、それらの出自は「ゲゲゲ
の鬼太郎謎全史」でもきちんと解明されているのですが、アササボンサンだけはルーツが分からなかったみたいです。
私の独自調査ですと、「吸血鬼の事典」(青土社)にアサンボサムと言う吸血怪物が紹介されてまして、名前の酷似性から、ほぼ、この妖怪と同一と見て、間
違いなさそうです。木の上から人を襲うと言う特徴も一致しています。(上述の「世界の怪物・神獣事典」にも、ササボンサムという名前の妖怪の記載があり、
恐らく同一妖怪と思われる)
もっとも、アサンボサムはアフリカの妖怪でして、東南アジア出身ではないのですが、そもそも、水木しげるの妖怪知識はかなり大らかな部分がありまして、
ラングスイルはランスブィルにされてしまうし(「血戦小笠原」)、沖縄の妖蛇アカマタは東南アジアの寄生妖怪扱いされたりしてます(「妖怪軍団」)ので、
アフリカの妖怪アサンボサムがアジアの吸血妖怪の一員に混ざっていたとしても、それほどおかしな話でもないでしょう。
このような妖怪の名前や伝承の錯乱が、水木しげるの情報源自体の間違いなのか、水木しげる自身の勘違いなのか、それとも、活版印刷上のミスプリントの結
果なのかは分かりません。しかし、「ゲゲゲの鬼太郎」が書かれていた当時、ラングスイルやアサンボサムみたいなマイナー妖怪をすでに知っていたという事自
体が、実は大した博識ぶりなのであり、バックベアードの元となったアメリカ妖怪(マチ・マニトウ?)の事を水木しげるが知っていたかもしれない、と言う貴
重な根拠になる次第です。
3、いやみ
いやみと言う名前の妖怪は、「ゲゲゲの鬼太郎」には数回、登場しています。いずれも、女装ないし女性の体を持った爺顔妖怪で、「ゲゲゲの鬼太郎謎全史」
では文字スペースが足りなくて出自の説明が省略されているみたいなのですが、ルーツは「いやや」と言う妖怪と見て間違いなさそうです。
いややは否哉と書き、妖怪画で有名な鳥山石燕が残したイラスト上の妖怪の一つです。この原典の方も、「女装した爺顔妖怪」という以上の説明はなく、「ゲ
ゲゲの鬼太郎」内でのいやみのパワフルな超能力は、水木しげるがあとから付加したものと考えてよいでしょう。
4、ぬらりひょん
ぬらりひょんは、決して素性不明な妖怪などではありません。それどころか、とても有名な妖怪の部類にはいるでしょう。
「ゲゲゲの鬼太郎」に登場するぬらりひょんについて特筆すべき点があるとすれば、近年の新作「ゲゲゲの鬼太郎」アニメでは、ぬらりひょんは鬼太郎のライ
バルとして準レギュラー扱いされている事でして、これは一見アニメオリジナルの設定のようにも思えますが、実際に、ぬらりひょんが悪妖怪の総大将として鬼
太郎と対立し続ける原作シリーズが存在するのです。知名度が低いようなのですが、「コミックボンボン」に連載されていた「最新版ゲゲゲの鬼太郎」がそう
で、この原作シリーズでは、過去に流されたぬらりひょんが、現在まで再び生き続けた結果、倍のパワーを手に入れ、妖怪の頂点に君臨してしまったと言うス
トーリーになっています。スタイルも将軍風に変更し、1996年版のアニメに出てきた妖怪王ぬらりひょんも、実は、この「最新版ゲゲゲの鬼太郎」のぬらり
ひょんが元ネタとなっていたのです。
他にも、この「最新版ゲゲゲの鬼太郎」からは、鬼太郎が夢の中の妖怪軍団と戦う話(1985年版の第86話「妖怪香炉 悪夢の軍団」や1996年版の第
106話「悪夢!妖怪地獄」)や1985年版の単発エピソード最終回「鬼太郎ファミリーは永遠に」などがアニメ採用されており、意外と、外してはいけない
原作シリーズとなっています。
5、がしゃどくろ
妖怪がしゃどくろは、「ゲゲゲの鬼太郎」の場合、原作マンガでは「最新版ゲゲゲの鬼太郎」の第1話に、アニメだと1985年版の第71話「妖花の森のが
しゃどくろ」、1996年版の第11話「毛羽毛現とがしゃどくろ」などに登場しています。
ところが、村上健司の「妖怪事典」によりますと、がしゃどくろに関する民間伝承などは存在せず、本当の出典は佐藤有文が子ども向けに書いた「日本妖怪図
鑑」(立風書房)だったらしい事が判明。(この本、私も大の愛読書でした)つまり、近代の創作妖怪だった訳ですが、そのいかにもなネーミングのせいか、伝
統妖怪の一つだと誤解している識者も多く、「ゲゲゲの鬼太郎」に限らず、新紀元社が発行している、かなりマジメな妖怪百科シリーズ(「幻想世界の住人た
ち」など)でも、すんなり紹介されてますし(しっかり、バックベアードの方は除外されていると言うのに!)、妖怪出典については、「変身忍者嵐」や「超神
ビビューン」なんかよりも、はるかに考証がしっかりしているはずの「忍者戦隊カクレンジャー」にも幹部妖怪として名を連らねている始末です。ヤレヤレ。
6、やにやに坊
小学館から発行された「鬼太郎なんでも入門」(小学館入門百科シリーズの一冊で、のちに装丁を変えて復刻)の巻末部分では、鬼太郎の敵妖怪たちがずらり
と紹介されているのですが、その中に「やにやに坊」と言う、聞きなれない名前が混ざっています。イラストや紹介文を見たところ、たんたん坊らしいのです
が、なぜ、この本では、やにやに坊に改名されているのでしょう?
実は、1968年版のアニメの鬼太郎では、たんたん坊は唾液(たん)ではなく目ヤニを飛ばして、攻撃してくるというふうに設定変更されておりまして、ど
うやら、それにあわせたせいみたいです。(「鬼太郎なんでも入門」では、二口女も、1968年版のアニメ内での変更名称「大口女」で紹介されています)
1968年版のアニメでは、たんたん坊の攻撃方法がなぜ変更されたのかも疑問に感じるところですが、放送時間が夜6時台と食事時でしたので、汚いネタを
避けた結果だったのかもしれません。(たんも目ヤニもたいして変わらないような気はしますが)
7、「死神大戦記」の妖怪たち
「死神大戦記」は、水木しげるが1974年に発表した単行本上下巻に及ぶ大長編「鬼太郎」番外ストーリーです。この作品にも、数多くの妖怪や西洋悪魔な
どが登場するのですが、「ゲゲゲの鬼太郎」の中では傍系作品である為、普段はほとんど取り上げられた事がありません。ひとまず、私が気付いた範囲のものを
解説しておこうかと思います。ここで、「死神大戦記」とかなり密接な関係があったのではないかと思われるのが、佐藤有文が書いた子供用妖怪百科「日本妖怪
図鑑」「世界妖怪図鑑」(立風書房)の二部作です。調べますと、「日本妖怪図鑑」の方は1972年初版、「世界妖怪図鑑」は1973年初版となってますの
で、「死神大戦記」は、そのあとすぐに発表された事になります。まずは、この点を留意していてください。
パウチ、ニタッウナルベ・・・共に、本当にアイヌに伝わる女の妖怪。ただし、本物のパウチはかなり恐ろしい性質の
淫魔です。(「日本妖怪図鑑」ではパウチはかなり正確に紹介されています)
大かむろ・・・
「死神大戦記」では、地獄への案内人役で登場。さて、「日本妖怪図鑑」でも大かむろは紹介されているのですが、こちらは鳥山石燕の「おおかぶろ」の絵が添
付されており、外見がまるで異なります。しかし、「地獄への案内人」という設定は一致しており、もしかすると、水木しげるは「日本妖怪図鑑」の説明を借用
して、大かむろを「死神大戦記」に登場させたのかもしれません。
大海魔、化けがらす・・・共に、水木しげるの別の作品「悪魔くん」のテレビ実写版に出てきたオリジナル妖怪。「悪
魔くん」の放送は1966年なので、意外な場所での再会に喜んだファンも多いかも?
ミイラ男・・・「死神大戦記」では、ドラキュラの兄貴分として、ドラキュラよりも格上の存在。第五期アニメ「鬼太
郎」でも、西洋妖怪軍団の中でミイラ男はドラキュラよりも格上の特別ゲスト扱いでしたが、あるいは「死神大戦記」の設定を流用したのでしょうか?
八大地獄・・・照らし合わせたところ、八大悪魔の管轄は以下のようになるみたいです。
等活地獄(ブラックエンゼル)
黒縄地獄(エリゴル)
衆合地獄(ベールゼブブ)
叫喚地獄(プルトー)
大叫喚地獄(アスタロト)
焦熱地獄(モロク)
大焦熱地獄(ルキフェル)
阿鼻地獄(サタン、本当はフルフルの管轄のはず)
これらの悪魔は全て「世界妖怪図鑑」でも紹介されており、採用されている外見もほとんどが一致しています。「死神大戦記」が「世界妖怪図鑑」を参考にした
のはほぼ間違いないだろうと思われます。
ブラックエンゼル・・・この悪魔の名前は、私の知る限り、「死神大戦記」と「世界妖怪図鑑」にしか出てきません。
「世界妖怪図鑑」で勝手に創作された悪魔(ブラックエンゼルとして紹介されてる図版の正体は不明)を、水木センセイ何も知らずにうっかり採用しちゃったよ
うです。(苦笑
補記・1968年に、巨匠・楳図かずおが書いたホラー漫画に「ブラック・エンゼル」という超短編がありまして、女悪魔ブラックエ
ンゼルの元ネタは、どうも、これっぽいです。もっとも、楳図かずおが描くブラックエンゼルは、妖艶女魔というよりも、いたずら妖精的ですが。
エリゴル・・・「世界妖怪図鑑」でエリゴルとして紹介されている図版は、実は原本のコラン・ド・プランシー「地獄
の辞典」ではインドの悪魔デウムスとして紹介されてます。ここでも、水木センセイ、「世界妖怪図鑑」をそのまま引用しちゃったようです。
ベールゼブブ・・・椎名高志のマンガ「GS美神
極楽大作戦!!」に出てくるベルゼブブも分身術を十八番とするのですが、もしかすると椎名高志も「死神大戦記」を愛読してた?
ルキフェル・・・「世界妖怪図鑑」の図版はルキフェルどころか特定悪魔の絵ですらない風刺画だったらしいのです
が、アニメ版「悪魔くん」に出てきたルキフェルも、このデザインだった時は、ちょっと嬉しく感じたものでした。
8、ムー帝国の妖怪たち
「鬼太郎国盗り物語」には、シリーズ全体を通しての敵として、地下帝国のムーというのが登
場します。水木しげるが題材としてムーを用いているのは、本
作だけの話ではなく、「新ゲゲゲの鬼太郎」にもムー大陸の王だったというムーン大王が出てきますし、「お化けのムーラちゃん」もムーの王族の一人という設
定です。ちなみに、この二作品では、ムー大陸=ムーン(月)だったという水木しげる独自の解釈が取り入れられています。
さて、「国盗り物語」のムーですが、こちらは月ではなく地下(地球空洞説の地中)に潜って生き長らえていたと説明されており、ムー人そのものよりも、ムー
に雇われた刺客妖怪たちが鬼太郎たちに襲いかかってくるのが通常パターンとなっています。その為、前半は世界各国の色々な妖怪が登場して、楽しませてくれ
ます。
中盤から、沖縄の妖怪神ボゼがムーの味方をしている事より、ムーへの出入り口は沖縄にあって、沖縄妖怪はすでにムーの傘下にあるらしいと
いう話になるのですが、鬼太郎たちが沖縄に乗り込んでも、いっこうに沖縄妖怪軍団相手の大戦争とかには発展しませんでした。確かに、ガジュマルの精とか懐
かしのシーサーなども登場しますが、ムーとはいっさいつながりはありません。それどころか、この沖縄編では、くだんとか役行者三十世、西洋妖怪ゴルゴーン
など、沖縄と関係のないキャラがぞろぞろ出現します。バックベアードまでもが相撲だけをしに来日します。
結局、ムーにへつらっていた沖縄妖怪は
ボゼだけだったようで、ボゼは同じ沖縄の妖怪神であるタコ神に粛正されてしまいます。これより、鬼太郎一行は地球空洞の中へと突入し、ムーの首都を目指す
のですが、地球空洞の世界も、地上全土と同じぐらい広くて、あちこちにムー以外の原住民も散在しているらしく、ムーの首都にたどりつくまでに鬼太郎たちは
さまざまな国を冒険します。この地下帝国には、恐竜やモアなどの絶滅動物が棲息しており、従来の地球空洞SFの発想がそのまま踏襲されているようです。し
かし、登場する妖怪は、ヒザマやカタキラウワ、かめおさ(リニュー)など、なぜか地上の妖怪だったりします。
ムーは、これらの辺境国家をいずれ
も制圧し、配下の軍隊を送り込んでいますが、ここで登場するムー兵たちはどいつもガイコツ人間ばかりです。ムーが最初に地上に派遣したエージェントも、ガ
イコツベビーでした。でも、ムー人種全てがガイコツだという訳ではなく、どうも、ムーを乗っ取った「創造主」一派というのがガイコツ族だったようです。歯
痛殿下も、本来はベルギーの妖怪なのですが、ガイコツ姿を買われてか、ムーの総理大臣の側近役で大奮闘です。空中海賊の船長もガイコツ顔ですが、「お化け
でないと、切れた手は元には戻らない」「人間はだめか」と言うやりとりをしているところを見ると、見かけはガイコツでも、彼らも、実際には人間の一種なの
かもしれません。
9、十二使徒
十二使徒と呼ばれるキャラクターが登場したのは、同じ水木しげる作品でも「ゲゲゲの鬼太郎」ではなく「悪魔くん」の方です。そのうち、昭和63年から
「コミックボンボン」に掲載されて、同時期にアニメ化もされた「最新版悪魔くん」に出てくる十二使徒は、いずれも妖怪や精霊のたぐいばかりで、かなりマイ
ナーなキャラも混ざっています。面白いので、私の分かる範囲で、それらの出自を紹介したいと思います。
メフィスト2世・・・悪魔メフィストの息子。悪魔メフィスト(フェレス)自体がファウスト伝説の戯曲内の創作キャ
ラだし、その息子となると、完全に水木しげるの創作キャラです。
ヨルグ・・・アフリカのドゴン族に伝わる神様です。その姿は、狐だともジャッカルだとも言われています。神の言葉
を得る為に母なる大地と交わるなど、トリックスター的側面を持ち、トレードマークの「腰蓑」こそが実は神の言葉そのものだったりします。
ヨナルデパズトーリ・・・
インターネットで知ったのですが、アステカ神話に伝わる悪神テスカトリポカの別名だそうです。テスカトリポカは、アステカの主神ケツアルコアトルと対峙す
る強大な悪魔のはずなのですが、「最新版悪魔くん」に出てくるヨナルデは、なぜか「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪獣(蛟龍)に容姿がそっくりです。
(メキシコに伝わる地獄の神だという説明もあり)
幽子・・・名前からして、オリジナルキャラだと思われます。旧版の
「悪魔くん」(「悪魔くん復活千年王国」)の十二使徒の一人にも、幽霊と言うキャラはいるにはいるのですが。ミニ幽霊を引き連れていると言う能力について
は、あるいは、元ネタとなった妖怪がいるのかもしれません。(「ゲゲゲの鬼太郎」の方に、たびたび「幽子」という名前のキャラが登場しているようですが、
そちらとの関連性は不明)
ピクシー・・・イギリス出身の代表的な小人妖精のひとつ。集団で行動し、いたずら好きとして知られています。
百目・・・
実写版「悪魔くん」(昭和41年)第1話に登場した栄誉ある妖怪ガンマーの幼体で、その原作マンガにあたる旧版「悪魔くん」(少年マガジン版)にも登場し
ています。しかし、民間伝承や古い時代の記録(妖怪画や随筆など)として百目と言う妖怪が実際に存在していたのかどうかは、今のところ、はっきりしていま
せん。
妖虎・・・アジア系の虎の妖怪らしいですが、ウェアタイガー(虎憑き)と言うよりも、虎が人間に化身したものみた
いです。具体的な妖怪名はあげられませんが、「西遊記」などには、虎が化身した妖怪がウジャウジャ出てきます。
家獣・・・
何となく、アフリカや東南アジアあたりにいそうな感じもしますが、正確なところは不明です。実は、旧版の「悪魔くん」(「悪魔くん復活千年王国」)でも十
二使徒の一人として名を連らねており、さらには「ゲゲゲの鬼太郎」にもヨーロッパ出身の妖怪として登場しています。
象人・・・インドの象頭の怪人と言えば、真っ先にガネーシアが思い浮かびます。ただし、そのユニークな容姿とはう
らはらに、現在でも広く崇拝されているインドの神ガネーシアは知恵をつかさどる賢神であり、「悪魔くん」の象人とは重ね合わせてはいけないほど、格の高い
存在です。
鳥乙女・・・アニメ版「悪魔くん」によると、イースター島出身らしいです。イースター島と言えば、かのモアイ像が
有名ですが、過去のイースター島人は、モアイ以外にも、鳥人を信仰していた時期もあり、島には大きな鳥人像も残っているそうです。鳥乙女は、多分、そうし
た鳥人神の末裔なのでしょう。
サシペレレ・・・見た目は、ヨーロッパ系の妖精みたいな感じもするのですが、実は、ブラジルの精霊です。サシと略
称で呼ばれたりもするそうで、佐藤有文のかの「世界妖怪図鑑」には「怪力男サッシー」なる巨人妖怪が紹介されているのですが、どちらもブラジル出身の一本
足キャラだし、恐らくは同じ妖怪?
こうもり猫・・・水木しげるマンガでの登場は、「ゲゲゲの鬼太郎」の方が先ではないかと思います。その時は、アメ
リカでの妖怪大統領選に立候補していた(ただし、落選)のですが、そんなに実力があったようには思えません。のちに、1996年版のアニメ「ゲゲゲの鬼太
郎」でも西洋妖怪四天王の一人として姿を見せてましたが、この時も、それほどの強豪のようには感じられませんでした。「悪魔くん」の十二使徒の中でも、落
ちこぼれのコメディリリーフ扱いで、かつては魔女の使い魔だったと言う過去が暴露されます。魔女が作った合成妖怪かとも推察され、元ネタがあるのではな
く、水木しげるが創作したオリジナル妖怪である可能性の方が強いでしょう。ちなみに、1996年版のアニメのこうもり猫は、妖気を吸い取るウーストレルを
体から放出しますが、これは原作「妖怪大統領」のこうもり猫が吸血象を出現させる能力の変形かと思われます。