黒十字軍・我が闘争 |
さて、黒十字軍と言う悪の組織について考えた時、誰もが、まず真っ先に思い浮かぶ疑問は「こいつらは、一体、何者なんだ?」と言うものではなかろうか。
石ノ森章太郎先生の原作マンガでは、仮面怪人の正体は、はっきりと「仮面(強化服)を身に付けた人間」だと分かるのだが、テレビシリーズの仮面怪人は、五体分離や完全変形などの能力も備えていて、生身の人間だとは、とうてい思えない。では、単純に改造人間なのだろうかと言うと、どうも頭脳までコンピューターらしいと思われる奴もいるし、後期の怪人は、人間よりも「機械(道具)」の要素の方がはるかに強い。かと思えば、最終回どたん場では、明らかに人間を素材にしたダイガー仮面なる仮面怪人が登場したりもしていて、つまり、サイボーグとかロボットと言ったカテゴリーでは表現しきれないのが、テレビシリーズの仮面怪人なのである。
あえて、全ての仮面怪人の共通点をあげるとすれば、「仮面のモチーフが、その怪人の主体となっている」と言う点であろうか。すなわち、「仮面」に機械なり人体なりの胴体を添付し、生命を与えたものこそが「仮面怪人」なのである。仮に、人間の体が合成素材として使用されていたとしても、決してこれをサイボーグとは呼んではいけない。人間の肉体すらも、怪人に命を吹き込む為の部品にすぎず、「仮面」こそが怪人のメインなのである。
よって、「仮面怪人」とは、あくまで人間ではない。「心を宿した仮面の異形者」たちなのであり、ゆえに、彼らが人類を自分たちと完全に区別し、抹殺しようとしている事も、うまく合点がいくようになるのである。
黒十字軍の総統は、恐らく、日本に常駐していたのであろう。日本のゴレンジャーに苦戦する総統が、最初に日本に召還した大幹部(将軍)は日輪仮面であった。
日輪仮面は、アフリカ戦線で連戦連勝の成果をあげていた強者ではあったが、あくまで「やや優れた仮面怪人の一人」に過ぎず、最強の怪人と言うほどでもなかった。(ミスサファイアは、日輪仮面を「総統の右腕」と呼んでいたが、これは他人の買いかぶりであろう)将軍に昇格したのも、きっと、それほど昔の事ではなく、ほんの最近まで同格だったからこそ、他の仮面怪人たちも日輪仮面相手だとタメ口だったのかもしれない。
では、なぜ、この程度の怪人を、最初の日本の大幹部として、総統は選んだのであろうか。実は、これまでの(将軍じゃない)仮面怪人たちも、ゴレンジャー相手にかなり善戦してきているのである。総統は、ゴレンジャーの実力を見くびっていたのかもしれない。強力な怪人をわざわざ日本に招かなくても、日輪仮面程度でも十分だろうと考えてしまったのだと思われる。
しかし、結果として、日輪仮面&もう一人の仮面怪人による共同作戦の数々は、ことごとく惨敗。現状の危機を正しく理解した総統は、モンゴルより最強の将軍・鉄人仮面テムジンを来日させる決心をするのである。
テムジン将軍は、黒十字軍全体に名の知れた、まさに黒十字軍最高のエースであり、中央アジア地区の黒十字軍の要とも言うべき存在だった。彼を日本へ召還する事は、中央アジアの黒十字軍の弱体化にもつながる為、総統としても、躊躇する部分もあったはずだと推察されるが、ゴレンジャーの脅威の前には、もはや、ためらってばかりもいられなくなったのであろう。
総統は、大将軍の椅子をエサにして、日輪仮面にゴレンジャーへの最後の決戦を吹っ掛けるが、日輪仮面の実力では、やはり総統の期待には報いる事ができず、果てた日輪仮面に代わって、ここに、テムジン将軍の日本襲来が実現する事となるのである。
しかし、モンゴルの鬼と呼ばれたテムジン将軍でさえ、強力なゴレンジャーの前には、満足な戦果をあげる事ができなかった。総統が次に考えたゴレンジャー対策とは、複数の仮面怪人を共闘させるのではなく、強力な二つの軍団そのものを共闘させようと言うものであった。
かくて、アイスランドのエクラ火山より、次なる大幹部、火の山仮面マグマン将軍が日本へ召還される事となったのである。
ところで、テムジン将軍は、マグマン将軍の存在をよく知らなかったのではないかと感じさせられる節がある。その点から考慮すると、マグマン将軍は、どうも、のちのちになってから、メキメキと伸び出した新参将軍だったらしい。なにせ、テムジン将軍は、来日以来、ゴレンジャー攻略にすっかりと振り回されているような毎日であり、ナスカ支部で新兵器コンドラーが完成されていた事さえ気が付かず、世界各地の黒十字軍の情勢に疎くなっていたような状態だった。その間に、ナバローン要塞の開発で、いっきにマグマン将軍が成り上がっていた事を知らなかったとしても、仕方のない話だったのかもしれない。
結果を先に言えば、プライドの高い二大将軍が仲良く共闘するなぞと言うのは、全くの夢物語であった。テムジン将軍は、マグマン将軍に負けまいとゴレンジャーへの特攻を敢行してしまい、実質的に、テムジン将軍のあとをマグマン将軍が引き継ぐ形になったのである。
そのマグマン将軍も、やがて、難攻不落のナバローン要塞をゴレンジャーに完全破壊されて、失脚するはめとなる。マグマンと同格程度の将軍は他にもいたのではないかと推測されるが、しびれを切らした総統が、次に召還したのは、永き眠りについていた大将軍ゴールデン仮面だった。
ゴールデン仮面が、いつから眠っていたのかは分らないが、その存在は伝説的に黒十字軍全体に知れ渡っていたようだし、黒十字軍に長い歴史があった事さえも、それとなくほのめかしている。(あるいは、前述のように、仮面怪人の本体を「仮面」だと考えるならば、ゴールデン仮面の目覚めは、「復活」と言うよりも、むしろ「最強の仮面<古代エジプトのファラオの仮面>の怪人化」=「誕生」と言う風に分析する事も可能である)
しかし、大将軍とは言っても、それは過去の話であり、老兵のゴールデン仮面はいささか眠っていた期間が長すぎたようである。大掛かりな作戦の実行力や膨大な人脈こそあるものの、近代戦術と言うものをよく知らない部分もあったせいか、ゴールデン仮面の立案作戦はいまいちゴレンジャーを窮地に立たせるところまではいかなかったのであった。
全ての悪の元凶、黒十字総統が何者なのかは、まるで正体が掴めていない。危機におちいると、十字の頭部だけの姿になるところを見て、総統もまた十字の仮面の化身だったのかもしれない。宇宙から飛来した仮面生命体だったと言う事も考えられる。だから、スーパーマンが自星の隕石であるクリプトナイトに弱かったように、総統もまた、カシオペアからのX線のみが苦手だったのだ。(総統が宇宙人ならば、忍団の導入を「宇宙侵略軍との結託」と呼んだ理由も、何となくうなづけるようになる)
総統と黒十字城は同一物だったと言うのが、昨今の定説ではあるが、そうだとすれば、黒十字城登場初期、総統自身が黒十字城に乗り込んでいた事と、つじつまが合わなくなる。恐らく、この両者は、はじめから一体だったのではなく、末期において、はじめて合体したのである。
なにしろ、黒十字城は、バリヤや空中要塞のエンジン(36話参照)など、それまでの黒十字軍の科学力を全て導入した最強の飛行兵器である。カシオペアX線に弱いと言う欠点を露見してしまった総統が、その短所を無くす為、マシーンエンペラーとして、その身を委ねる気になったとしても、決して不思議な話ではない。
しかし、黒十字城が無敵だったのは、内部に総統なりゴールデン仮面なりの適切な指示を出せる司令官がいたからこそであった。ゴールデン仮面亡きあと、総統自身が黒十字城になってしまっては、誰も上手に黒十字城を使いこなす事はできず、小回りの利くゴレンジャーチームのたやすい内部潜入を許してしまい、黒十字城もろとも総統はあえない最期を遂げる事になってしまったのであった。
かくて、バビロニアの星占い通り、総統の巨大な帝国は完全に滅び去ったのである。
さて、ここにもう一つ、疑問がある。
はたして、黒十字軍はゴレンジャーに勝つ事ができただろうか、と言うものである。
ゴレンジャーの強さの秘密は、5人の戦士の団結力に頼っている部分が多い。特に、ゴレンジャーストームが使えなければ、強力な仮面怪人とは戦えなかったはずだと言っても過言ではないだろう。
だからこそ、油断の無い作戦を展開し、ゴレンジャーの一人でも確実に倒せれば、たやすくゴレンジャー打倒などできたのではないか?
しかし、この答えはノーなのである。
まず、ゴレンジャーのメンバーは強い精神力の持ち主ばかりなので、滅多な手段では戦闘不能にする事すらできないし、毒ガス仮面の時のように、死亡状況によっては蘇生さえ可能なのである。さらに、二代目キレンジャー、熊野大五郎はカンキリ仮面に殺害されたが、代理のキレンジャー、大岩大太がすぐ補充されている。実は、37話で判明した事なのだが、イーグルではゴレンジャーの予備軍を大量に育成していたのである。どんなにゴレンジャーのメンバーを欠員させたとしても、すぐ新しい戦士が補給されるであろう。
まさにゴレンジャーは不滅の五人組なのであり、この永遠無敵のチームには、強力な黒十字軍と言えども、はじめから勝てる見込みはなかったのである。
参考文献/「秘密戦隊ゴレンジャー大全」(双葉社)