「虎の穴」七つの謎 |
1、「虎の穴」は、なぜ裏切り者に厳しいか?
「虎の穴」と言うと、真っ先に、裏切り者に対する、あまりにも厳しい追及の手が思い浮かびます。
「裏切り者」と言うのは、主に<ファイトマネーの半分を「虎の穴」に上納しなかった者>を指し、一見「ファイトマネーの半分」はピンはねしすぎのようにも思えるかもしれませんが、「虎の穴」出身レスラーは皆、超一流になれて、転戦地では必ず豪華ホテルに泊まり、誰もがスポーツカーを乗り回せるほど儲けてる訳ですから、必ずしも厳しすぎる納金でもないのではないかとも考えられる次第です。
何より、「虎の穴」本部は超僻地(アルプスの山奥)にあり、そこに大所帯のレスラー予備軍を養っている訳ですから、その維持費もそうとうな額にのぼるはずでしょう。だから、冷静に考えれば、「ファイトマネーの半分」ぐらいは収めてもらわなくちゃ「虎の穴」自体が存続できないでしょうし、明日も知れない貧乏人の息子から一流レスラーにと育ててやったのだから、そのぐらいの恩返しは当然と言う見方もできる訳です。
にしても、裏切り者を死ぬまで追い詰めるのはやり過ぎじゃないかと思う人もいるかもしれません。でも、「虎の穴」が育てているのは「レスラー」なのです。人間、強くなると、慢心から、他人の命令には従いたくなくなるものです。もし、一人でも「裏切り者」の存在を見逃してしまえば、「虎の穴」卒業生がぞくぞくとあとに従い、「虎の穴」がいっきょに崩壊してしまう危険性に彼らはいつも脅かされていたのではないかと思われるのです。だからこそ、裏切り者には死を与えるほど「虎の穴」の制裁は厳しかったのではないかとも考えられるのです。
そして、事実、タイガーマスクと言う、たった一人の裏切り者を始末できなかったばかりに、裏切り者や脱走者が急増し、それゆえに「虎の穴」は本当に滅びてしまったのでした。
2、「虎の穴」支配者陣の実力の謎
ストーリー内の説明によりますと、「虎の穴」のボス(タイガー・ザ・グレイト)はかってレスラーで、あまりに強すぎて、自身が戦う事に魅力を感じなくなったので、いわゆる自分の道場的存在の「虎の穴」を設立し、強豪レスラー育成に励みだしたらしいのですが、伊達直人がスカウトされた時、すでに「虎の穴」が存在していた事を考えますと、ボスの現役レスラー時代は少なくてもそれ以前(10年以上前)だった事になります。
さらに、<「虎の穴」こそ、忽然と姿を消した3人タイガーの隠れ蓑だったのではないか?>と噂されている点からも、3人タイガーの現役時代もまた「虎の穴」発足以前だったと言う事が伺え、そうなりますと、この3人タイガーを育て上げたと言うボスの現役時代は、きっと「虎の穴」開設時よりもはるかにさかのぼる事となり、つまり、一見若く見えるボスですが、それは単なる若作りであり、実際はかなりの老体だったのかもしれないとも推察できる訳です。
地上最強と謳われたほどの3人タイガーも、マットに復帰して、いざタイガーマスクたちと戦いますと、予想していたほどの十分な成果もあげられずに撃退されてしまいます。ただ、彼らは長い間「虎の穴」の支配者生活を続けていて、レスラーとしてのトレーニングから離れてましたし、前述のように、やや年老いて能力が衰えていた可能性も考えられます。その上、タイガーたちとの戦いは、ボスにどやされての緊急のレスラー復帰でしたので、まだ現役時のレスラーとしての勘が満足に戻っていなかったのかもしれません。そう言う意味では、彼らは実力を発揮しきれない哀れな敗れ方をしたのかもしれないと言えるでしょう。(こうした3人タイガーの失敗を教訓にしたのか、ボス=タイガー・ザ・グレイトは、ミラクル3として先にマット復帰しておいて、適度に体を試合に慣らしてから、タイガーマスクに挑んでいます)
ただ、作中の様子を見ますと、3人タイガーは、自身らはレスラーとしての鍛錬には戻っていなかったものの、時々、自分たちの正体を伏せて、目に付けた有望レスラーたちをこっそりコーチしていたのではないかと思われる節があります。イエローデビルには怪しげなセコンドがついてましたし、キングタイガーはブラックパンサーばりのウルトラ・タイガー・ブリーカー崩しを身に付けていました。ライオンマン、赤き死の仮面などの「虎の穴」トップレスラーたちの影にも何となく3人タイガーにコーチしてもらえたゆえの実力を疑い見る事ができます。
「虎の穴」とは、ボス達が影となり支配し、暗躍し、操作する、まさに伏魔殿だったのかもしれません。
3、「虎の穴」殺し屋レスラーの謎
タイガーマスクこと伊達直人が「虎の穴」への上納金を払わなかった結果、「虎の穴」から制裁をすべく刺客レスラーたちが次々に送り込まれてくる事となるのですが、そのトップバッターに選ばれたのがブラックパイソンでした。
なにぶん、タイガーマスクは「虎」の名を与えられた「虎の穴」きってのエリートです。(ライオンマンや赤き死の仮面でさえ「虎」の名はもらっていない!)その大物を叩きのめす大任に真っ先に選ばれたほどですから、ブラックパイソンもまた、「虎の穴」レスラー内では、そこそこの実力者だったのかもしれません。(「虎の穴」のシンボル像は、虎の体に蛇の尾も持ち合わせていますので、「蛇」の名をもらえるのもまたエリートの特権だった可能性があります)
ブラックパイソンの経歴を見ますと、69人の相手レスラーを病院送りにして、そのうち2人は殺している、と紹介されています。もしかすると、ブラックパイソンは、裏切り者制裁を「虎の穴」から専門に任されているベテランの殺し屋レスラーだったのかもしれません。この血なまぐさい戦歴の被害者の多数が「虎の穴」の裏切り者だったのかもしれないと考えられる訳です。
一般には、裏切り者の制裁に失敗した殺し屋レスラーたちもまた、脱落者として「虎の穴」に殺されてしまうように思われがちですが、任務をまっとうできなかった殺し屋レスラーに関しては、必ずしも皆処刑されているのでもありません。赤き死の仮面やブラックパンサーなどは強制労働送りにされただけで命そのものは助けられています。死罪に値するのは、恐らく「裏切る可能性のある」連中、あるいは「上部の命令に背いた」連中なのであり、たとえば、ストロング・アーム(鉄腕ジョー)やイエロー・デビル(高岡拳太郎)らは、伊達直人たちとの接点があり、生かしておくと、伊達直人らを頼って裏切る危険性もありました。また、スカル・スター(ロッキー)はリング外での伊達直人暗殺を命じられ、それを拒絶したので殺されましたし、ナチス・ユンケルは上部の指示を無視して、独断でタイガーマスクと戦うと言う重大な命令違反を犯しています。殺された連中は、いずれも、任務の失敗以外にも、殺されざるを得ない大きな理由があった訳です。
ただ、こうした「裏切り者」絡みの厳しいノルマさえなければ、「虎の穴」配属でも、レスラーたちは、けっこう自由なプロレス生活をエンジョイしていたようで、基本はヒールな悪役(悪役の方がファイトマネーを稼げるから)であっても、その「虎の穴」仕込みの実力で、かなり名のあるレスラーとかにも成り上がれたみたいです。スカル・スターなんて、さりげなく第10回ワールドリーグ戦に参加してましたし、猛牛サムソンは何らかの大会で優勝経験でもあるのか「ヨーロッパチャンピン」と呼ばれていました。伊達直人の裏切りさえなければ、彼らの人生はかくも無残に破滅したりはしなかったのです。
4、覆面ワールドリーグ戦の茶番の謎
覆面ワールドリーグ戦は、「虎の穴」がタイガーマスク抹殺の為に仕組んだ最大規模の罠だったのですが、その参加レスラーは「コンピューターで選んでいた」割には、いささか役者不揃いだった感じもします。のちに、単独でタイガーマスクに挑む事になる、史上最大の反則魔・赤き死の仮面や強豪コーチのストロング・アーム、ヨーロッパチャンピンの実力者・猛牛サムソンなどのビッグネームが何故か未参加なのです。タイガーマスクの確実処刑の為ならば、これら「虎の穴」の精鋭を全て集結させるのは当然の事だと思うのですが、どうも、この覆面ワールドリーグ戦の開催には、少々「虎の穴」内の私情も含まれていたものと思われます。
ここで、謎を解くカギになる存在がライオンマンです。ライオンマンの正体は、「虎の穴」の総監督であり、同時に、覆面ワールドリーグ戦参加レスラーのエース(刺客の切り札)としても、名前をあげられていました。実は、そもそも、覆面ワールドリーグ戦自体が、ライオンマン中心に参加メンバーが構成されていたのではないのでしょうか。単純に「総力をあげてタイガーマスクを倒す」だけではなく「いかにライオンマンを立たせるか」にも気を配ったリーグ大会だった訳です。
強者のストロング・アームは同じコーチ仲間としてライオンマンとはそりが合わなかったのかもしれませんし、史上最大の反則王・赤き死の仮面なぞを大会に混ぜたら、ライオンマンより目立ってしまうかもしれません。同じ怪力レスラーとして、ライオンマンより腕力があったかもしれない猛牛サムソンも、同様の理由でエントリーから外された可能性があります。
では、なぜ、そうまでしてライオンマンに主導権を与える必要があったのでしょうか。もちろん、彼は「虎の穴」の総監督と言う「エライ人物」でしたので、それなりに立たせてやらなくちゃいけない配慮もあったのでしょうが、それ以上に「タイガーマスクの教育者に全責任をとらせる」と言う側面もあったような気がするのです。タイガーマスクが裏切ったのは、ライオンマンの訓練時の指導の仕方が悪かったから、なぞと言うのは、あまりにも酷い責任の押し付けみたいな気もしますが、「虎の穴」ならそんな理由の責任転嫁も十分ありうるはずでしょう。(のちに、支配者だった3人タイガーも同じように責任追及されて、レスラー復帰させられている訳ですから)
かくて、自分の身が危うくなったライオンマンがより確実に(自分は力を温存しながら)タイガーマスクを倒せるように段取りしたアイディアこそが覆面ワールドリーグ戦だったと考えられる次第なのです。その参加メンバーには、腹心である助監督のエジプト・ミイラをはじめ、仲間のコーチ陣や教え子の中でも自分に従順だった若手レスラーばかりが集められる事となりました。ミスター・ノーなんて、「虎の穴」内では、かなりの劣等生だったようなのですが、この反則大歓迎のリーグ大会でのみ使用可能なコスチュームを着せられての特別参加です。(まともな試合ではこのコスチュームは使えなかったので、ミスター・ノーは<「虎の穴」の秘密兵器>なんて皮肉られていました)
ただ、こんなやや手加減したメンバー構成の上、どたん場で出現したグレイト・ゼブラを甘く見てしまったのは、ライオンマンの大きな誤算でした。ゼブラが常にライオンの餌食であるとも限らなかった訳です。こうして、ライオンマン中心の「虎の穴」訓練所の時代は終わりを迎え、覆面ワールドリーグ戦終了直後、ボスは「虎の穴」の大改造を宣言するのです。
5、鬼コーチ・鉄腕ジョーの謎
覆面ワールドリーグ戦の参加者の一人に、キング・サタンと言うレスラーがいます。原作マンガによれば「虎の穴」コーチ陣の一人だったみたいなのですが、アニメ版では「スパーリングでタイガーマスクと引き分けた」と言う前歴を与えられ、にも関わらず、ライオンマンにあっさりと倒されてしまう事で、「ライオンマンは(キング・サタンと同格の)タイガーマスクより強い」と言う印象をビジュアル的に見せつける為だけのキャラになりさがってしまいました。
実は、原作マンガですと、スカル・スターとミスター・シャドウの「地獄作戦」コンビも覆面ワールドリーグ戦に参加していたのですが、こちらはアニメ版では別エピソードでの先行登場となり、覆面ワールドリーグ戦の方には未参加となりました。そして、「虎の穴」コーチとしてのキング・サタンは、そもそも、この二人と深くつながる素性を持ったキャラクターだったのです。すなわち、「虎の穴」特訓時代、伊達直人やロッキー(スカル・スター)、リコ(ミスター・シャドウ)らを厳しくしごいた鬼コーチこそがキング・サタンだったのであり、原作マンガではタイガーマスクの手でキング・サタンは倒されていて、それゆえに「昔の仇をとった!」と言うオチにつながってたのでありました。
前述のように、肝心のロッキーとリコが、アニメ版の覆面ワールドリーグ戦には不参加となりましたので、キング・サタンの方の「かつての鬼コーチ」と言うディテールも自然とカットないしオミットされてしまいました。
しかし、気になる事に、アニメ版には、その後、覆面ワールドリーグ戦とは別エピソードで、「鬼コーチ」と呼ばれる「虎の穴」レスラーが堂々と登場しているのです。それが、ストロング・アームこと鉄腕ジョーと言う強敵レスラーです。でも、アニメの鉄腕ジョーは、ただの鬼コーチではありませんでした。伊達直人や大門大吾のレスリングのセンスを見抜き、色々と目にかけてくれていたと言う、「虎の穴」らしからぬ善人的要素も持った人物だったのです。
ここで、原作マンガに目を向けますと、「凡庸なロッキーやリコには殺しかねないほど厳しく当たっていた鬼コーチも、才能ある伊達直人をしごく時は手加減してくれた」と言った内容の説明を見つけ出す事ができます。すなわち、「ロッキーやリコをしごいた鬼コーチとは、実は鉄腕ジョーだったのかもしれない」と言う、衝撃的可能性が浮かび上がってくる次第なのであります。
鉄腕ジョーと、伊達直人の回想内に出てくる鬼コーチは、さまざまな相違点があり、同一人物とは断定しづらい部分もあるかもしれません。しかし、アニメの「タイガーマスク」では、ゲストキャラが放送話の違いによって全然別の容姿に変わってしまう事はよくある話で、特に別人説の根拠にもならないでしょう。むしろ、鉄腕ジョーはアニメのみの特別キャラであり、先に引用しましたように、原作マンガのわずかな説明(加えて、アニメでは、ロッキーとリコのエピソードが覆面ワールドリーグ戦から外されてしまった事)から話を膨らまして誕生したキャラである可能性が非常に高いと言う事実を、ここに鋭く指摘しておきたいと思います。
6、赤き死の仮面の強さの謎
それまで何の伏線もなかったのに、突如として現れて、ものすごい大物反則レスラーとして紹介されて、タイガーマスクの前に超然と立ちふさがったのが、かの悪名高き赤き死の仮面ことザ・レッド・デスマスクです。原作マンガにも登場する「虎の穴」トップの反則使いであり、実際に反則のテクニックのみでは並ぶ者なき大実力者だったのではないかと推測されます。
にも関わらず、タイガーマスクとの試合では、なぜ、かくも無残にも敗北してしまったのでしょうか。一般には、タイガーマスクの方が反則の腕前が上だったからだと説明されています。しかし、赤き死の仮面の実力がそこまでタイガーと比べて劣っていたとも思えず、どうも、もっと致命的な原因があったのではないかと想像されるのです。
赤き死の仮面のそうそうたる紹介コピーを見ますと、実は、「強さ自慢の要素」が一つ欠けている事が分かります。つまり、「リング上で相手レスラーを殺した」と言うエピソードが、彼の紹介の中には含まれていないのです。ブラックパイソンもライオンマンも、ブラックパンサーやデビル・スパイダーらも、リング上での殺人を自慢の身上にしているのにです。
しかし、これは仕方の無い話なのかもしれません。ブラックパイソンもライオンマンらも、恐らく、プロレス技だけを使って、相手レスラーを絶命させたのでしょう。それは、単に強いだけではなく、レスラーとしての超一流ぶりをも示す逸話となる訳です。ところが、明らかな反則で相手レスラーを殺したのでは、ただの危ない殺人鬼にしかなりません。レスリング界追放どころか、殺人事件扱いで起訴だってされかねないでしょう。そんな世の常識を、「虎の穴」も赤き死の仮面も分かっていたでしょうし、だからこそ、反則専門レスラーを決め込んでいた赤き死の仮面は、おのずと相手レスラーを殺さない範囲の反則の手加減をコントロールしていたのではないのでしょうか。反則の程度を変えれてこそ、その自在ぶりゆえ、まさに赤き死の仮面は超一流の反則レスラーだった訳です。
そして、貪欲で残酷な観客たちと言うのは、より凄い反則をこれでもかと見たがるものです。そうした観客を満足させれる反則(つまり、パフォーマンス性の強い反則や演出)を華麗に駆使できると言う事は、それだけ高いファイトマネーを稼げるヒールな悪役レスラーとして成功できると言う意味であり、そうした点で、赤き死の仮面は「虎の穴」に賞賛される反則レスラーだったのです。そして、その事が、むしろ誤算にとつながり、タイガーマスク抹殺の本気試合では赤き死の仮面にとっての大きな弱点となってしまったのでした。
タイガーマスクとの試合の際、いきなり棺おけを持って入場するあたりから早くも赤き死の仮面のパフォーマンス精神は見て取れますが、その後も人間ボールやアゴはずしなどの華やかなウルトラ反則を披露してゆくものの、悲しいかな、タイガーマスクを殺しきるほどの威力は持ち合わせていなかったのでした。それまでパフォーマンス性の強い反則試合を観客に見せる事に専念してきた赤き死の仮面は、この重要な戦いにおいても、つい見た目が派手な(しかし、殺傷力に乏しい)反則ばかりを選んでしまうように、体が勝手に動いてしまったのかもしれません。割れた長椅子の使い方を見てみても、タイガーマスクは思いっきり串刺しにする一方、赤き死の仮面はチクチクと刺す範囲でとどまっています。(「虎の穴」出身のタイガーマスク相手なら、思いっきり刺しても簡単には死なない事は、赤き死の仮面側も分かっていたはずです)
結局のところ、「虎の穴」に付け狙われるタイガーマスクは追い詰められていて、「生きるか死ぬか」の極限状態で、途中からは完全に相手を殺す気で戦っていました。他方の赤き死の仮面は、世紀の反則魔のプライドとして、この重要な試合においてさえ、見せるリングにこだわり、どこか手加減した試合運びをしてしまったのでした。その事が、最終的に、両者の明暗を分ける事となり、地上最強の反則魔と呼ばれた赤き死の仮面も、その代名詞をとうとうタイガーマスクに譲り渡すはめになってしまったのでした。
7、「虎の穴」潜伏期の謎
さて、強大にして大胆な「虎の穴」も、一時期間ですが、隠密的な行動をとっていた時期がありました。常に真正面から刺客レスラーをタイガーマスクにぶつけていた「虎の穴」も、その頃だけは話が別で、たとえば、第13回ワールドリーグ戦の決勝戦で、本来のタイガーの対戦相手であるビル・ヘラクレスを極秘裏に自分たちの刺客レスラーのシャーク二世とすり替えたり、シルバーリーグにザ・ミラクルズを内偵として参加させたり、さらには、ブラックパンサーをタイガーと戦わせるにあたり、わざわざ覆面王座タイトル挑戦トーナメントから始めさせたりなどしました。
このような潜伏的作戦をとったのは、もちろん、強力すぎるタイガーマスクに正攻法で立ち向かっても勝てないと判断したせいもあるのでしょうが、その他の理由としまして、「虎の穴」自体がそのネームを大っぴらに表に出しづらくなっていたのではないか、とも考える事が出来ます。
なにせ、「虎の穴」の窓口マネージャーであるミスターXが、かの悪名高き赤き死の仮面を日本プロレス界に連れてきた事で、この「赤き死の仮面」すら「虎の穴」配属だった事を世間にばらしてしまったばかりでした。日本プロレス業界の人間ならば、「虎の穴」がいかに危ない組織なのか、はっきりと認識し、ミスターXや「虎の穴」関係者をあからさまに警戒し始めたのではないかとも思われるのです。
だから、この時期の「虎の穴」は、少なくとも、ほとぼりがさめるまで、ミスターXを通さずに刺客レスラーを日本に送り込む苦労が生じていたような感じがします。さらには、さも「虎の穴」と無関係のレスラーに見せかける為、覆面王座タイトル挑戦トーナメントからブラックパンサーを参加させなくてはいけないような手間までかかるようになってしまったのではないかと推測される次第なのです。イエロー・デビルやキング・ジャガーらがタイガーに挑戦した時も、謎のセコンド(3人タイガーの一人?)やザ・ミラクルズがわざわざセコンドをつとめていましたし、3人タイガー出陣時も、全マネージャーは本部で待機状態にさせられています。
とは言うものの、やはり、マネージャーを使えず、しかも、暗黙の拒否態勢のある中、配属レスラーを動かすのは、なかなか大変な話だったのでしょう。そこで、支配者たる3人タイガーの失脚後、「虎の穴」のボスが考えたアイディアが、いっその事、ミスターXをプロモーターにまで昇格させてしまうと言うものだったのです。単にレスラーの世話をするだけではなく、(覆面ワールドリーグ戦の時のように)試合内容や会場予約まで自分たちで管理してしまえば、他からの苦情や敬遠なぞ、まるで気にしなくてもよくなると言う訳です。このアプローチ方法は、その後の日本プロレス業界での「虎の穴」の活動を十分に継続させる事となり、さらには、デビル・スパイダーのような超殺人級レスラーですら来日させる事を可能にさせたのかもしれません。
いかに、他からの圧力があろうと、天下の「虎の穴」は不屈なのです。しかし、内部からの裏切りによって、みじめに崩壊した悲しい組織でもあったのでした。